20年くらい前は、歯科医向けの講習会といえば、総義歯がメジャーなテーマでした。いかに痛くなく噛める入れ歯が作れるか。総入れ歯は歯が全くない状態ですから、上下の顎の位置関係、上下の人工歯の咬ませ方、入れ歯の形・大きさが問題になってきます。当時の多くの歯科医が、こうしたセミナーに殺到しましたが、実は私も卒業してから数年は総義歯が苦手でした。
雑多な情報が錯綜するなかで、様々なセミナーを受講してもなかなか実際の臨床に反映できるのには時間がかかりました。今では様々な先生のご指導と自分についてきて下さった患者さんのお陰で、総義歯の苦手意識はほとんど無くなり、むしろ面白いと感じられるようになりました。今年から、セミナーで指導する側にもなり、総義歯の患者さんがいらっしゃるとワクワクするようになりました。残念なのは都心の診療所ゆえか総義歯の患者さんが少ない事です。もっと腕をふるいたいと思っても、当院は東京駅近郊のビジネスタウンにあり働き盛りの年齢の方が中心ですから歯が全く無い方は極めて稀です。それでも時折、リタイヤされてから歯を失い、自宅から電車を乗り継いで総義歯の患者さんがいらっしゃいます。
師匠の先生からは、総義歯については技工士にまかせず、ほとんどの工程を自分でやるように指導を受けていますので、それを考慮すると、そんなに数は診れないということになりますが・・・
以前のブログ記事にも書きましたが、総義歯作りの醍醐味は、出来栄えに対する患者さんの評価が明白である事です。つくった義歯が受容できなければ、患者さんは、それをはずしておけます。まさに歯医者が敗者となる瞬間です。その逆であれば、患者さんの笑顔がはじけます。総義歯臨床は毎回、患者さんとの勝負の要素があり、ある意味インプラント臨床より厳しいくも面白いと言えます。技術的には向上していると思いますが、それでも難しいケースは、これからも遭遇するでしょう。場合によってはつくれないケースもあると師匠の先生でさえ言われることがあります。
来週末は、セミナーですが、受講生のお世話をさせていただく傍ら、ちゃっかり師匠の技を盗めればと思います。