M銀行大手町支店のSさんは前歯の差し歯の根っこが割れてしまい、抜歯となった。欠損した所に対してインプラントかブリッジの話をしたところブリッジを選択された。抜歯をして縫合し仮歯を入れた。翌週、抜糸でお見えになったところ、「こないだ入れてもらった仮歯は基本的に調子はいいのだけれど、裏側の根元の厚みを意図的に厚くすることはできませんかね。仕事で外国語をよく使う。厚ぼったくしてくれれば、巻き舌の発音の時にすごく助かるんだけど。」とおっしゃる。
英語で巻き舌はアメリカ人の一部にあるそうだが、ほとんど使いう事はないよなあ。イタリア語かな。などと思いつつ、ちょっと不自然かなと思われるもののいわれるとおりに仮歯を厚くした。「うーん、いい感じです。」えーホントかよ、と驚くもつかの間、「もっと厚くできますか?」とおっしゃる。これ以上厚くすると、かなり不自然な感じは免れないと思ったので、「とりあえず様子をみましょう。」と申し上げた。
イタリア歌曲を趣味でやっていた妻から「巻き舌できる?」と聞かれ、「るるるるるる。こんな感じ?」とやってみせた。「巻き舌が必要な私ができなくて、必要のないあなたが、できるなんて。」と悔しがられたことがある。
ネットでみると、遺伝だから仕方ないとする記事と、練習でうまくなるとする記事があった。またイタリア語だけでなく、ロシア語、スペイン語、ドイツ語やフランス語の一部など巻き舌を使う言語はけっこうあるみたいだ。
M銀行ローマ支店とかモスクワ支店とかあるのかはわからないが、Sさんにとっては前歯の裏側の根元は商売道具ともいうべき大事な体のパーツということなのだろう。自分で巻き舌をやってみると、舌が振動するのはどちらかといえば、歯の裏側の付け根というよりは、それよりやや後方の部分と思われるが、まあそんなことはどうでもいい。なんとか本番のブリッジでも「うーん。いい感じですね。」と言わせたい。巻き舌を実際にやってもらいながら。
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