「敵を知り己を知れば百戦危うからず」とはかの有名な孫子の言葉であるが、松翁会歯科にくる患者さんは普段の仕事でどの程度ストレスをもっているのだろうと、ふと思い、この本を買った。最近、横柄な態度の患者さんが増えて、無断キャンセルをしようが、約束の時間に15分遅れようが、謝罪の一言も無く、話がやたらと長くなり次のアポの患者さんに迷惑をかけるなど、こちらが対応に苦慮するシーンがやたらと多くなった。「この不況で金融業会の方は、よっぽどピリピリされているのだろう」と、やり過ごすようにしようと自分に言い聞かせようとするものの、こちらも感情がある生身の人間ゆえ爆発寸前になることもしばしばだ。
もともと就職活動をする人むけの本だが、自分の患者さんの仕事がどういう状況なのか、話ではいろいろ聞くものの、活字で知っておくのも患者さんがどういう精神状態で診療室に入ってくるかを理解するうえで有用ではないかと考えた。書いてある内容が当たっているかどうかは知る由も無いが、なかなか興味深い。
銀行業界の基本的な性格として、「学歴主義社会と連動したエリート集団として、長らく日本経済の中心に君臨してきた。しかし90年代半ばから状況は一変。プライドは高いくせにひ弱な優等生体質からの脱皮を迫られている。」とある。業界の基本的構造として、「2000年代、超低金利政策などの追い風もあって、銀行の業績は大きく回復した。しかし、ここに来てその風向きがやや変わってきている。(中略)サブプライムローン問題の波及、世界インフレの懸念など経営環境も大揺れ。いま銀行マンの大半はピリピリしている。」とあった。また各銀行の現状として、給料、福利厚生、異動、転勤、業界他社からの評判などが記されている。
ちなみに当院と関係の深いM銀行については、「国家エリート意識の強いN銀、おっとりしたD銀、ノーブルなF銀。3つの名門が合併した当初は寄せ集め集団ならではの苦渋の選択だったが、結果的にこれが奏効。勢力争いのゴタゴタも一段落し復活してきた。業界他社からは「眠れる獅子がとうとうおきてきましたか」と元気ぶりは注目の的。背景には旧3行以来のミドル社員が大量離脱し、現場レベルで「血の入れ替え」が進んだから、と皮肉な見方もある。ここ数年の新卒大量採用は業界でも話題の的になっている。」そうである。
「一人前の銀行マンの条件として、余計な疑問を持たず、素直に優等生を目指せる人」「仕事に夢やロマンを求めすぎないタイプこそ選ばれし銀行マンの卵」など本音の部分ととれる記事が漫画入りでコミカルに記載されている。最後に28歳の営業マンが「銀行員の仕事は世間から誤解されすぎている。私は生身の人生ゲームを楽しんでいる。」といった内容の体験談で〆られていた。
まあ、いずれにしても、景気がよくなって金融関係の患者さんの機嫌がよくなっていただかないと、診療所の存亡にかかわるといっても過言でない。日ごろのストレスを金融業会よりも深刻な歯科業界にぶつけるのもどうかと思うが、お互い「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ」精神で頑張るしかないのかな。敵を知り己を知っても危うい戦いは続く。(長谷川)
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