心理学の応用

 とある心理学の一般向けの本を読んでいると、歯科でそのまま応用できそうな例がでていた。「恐怖は弱めて使え」というものである。
恐怖を与えれば人は動く。それでは恐怖を与えれば与えるほど、効果は増すのか。つまり、できるだけ強く脅かした方が効果的なのだろうか?この疑問に答えたのが、ジャニスをはじめとするアメリカの心理学者のグループである。しかも、彼らの結果は大方の予想を裏切る意外なものであった。答えは「恐怖は弱ければ弱いほどよい」なのだそうだ。
ジャニスは、恐怖の大きさを三つのレベルで操作した。それぞれ、「大きな恐怖」「中くらいの恐怖」「弱い恐怖」である。大きな恐怖が与えられる場合には、「よい歯ブラシを使わなかったり、歯を磨かないとこうなりますよ」と、歯茎がひどい病気に侵されたスライドを見せてみた。また、極端に悪くなった場合の治療として、歯にドリルで穴をあけられたり、極度の痛みを伴う歯科手術なども重ねて見せたのである。中くらいの恐怖の場合には、それほどひどくない口腔疾患についてのスライドが見せられた。弱い恐怖の場合には、歯の手入れをしないと虫歯になりますよ、といった程度の主張がなされるだけであり、スライドも普通の人の写真が使われた。
実験が終わってから一週間後、人々がどのくらい説得を受け入れて、歯を磨くようになったかが調べられた。常識的な判断をすると、恐ろしいスライドで脅かされた人ほど、真面目に歯を磨くようになったと思われる。しかし、ジャニスたちの得た結果は逆であった。説得を受け入れてくれた人の割合(%)はそれぞれ、強い恐怖(8%)、中くらいの恐怖(22%)、弱い恐怖(36%)であった。
この結果は、脅かしすぎると人は嫌な気分になり、むしろこちらの言い分を受け入れなくなってしまうことを示している。自分にとってあまりにつらい・不快な出来事は、心の奥底に抑圧されてしまうとか、「そんなわけないだろう。大げさに作ってるだけさ」と否定されてしまうという精神分析で言われるメカニズムと同じである。いくら効果があるからといっても、脅かしすぎはよくないのだ。恐怖は「スパイス」として使うぐらいの心構えでいるのが良いのだという。
恐怖アピールという説得テクニックは、大きく分けて二つの要素から成り立っているという。つまり(A)恐怖を与え(B)その恐怖を避けるための提案をする、というものである。恐怖を与えるのは良いとしても、その恐怖を避けるためには、ほどほどの提案をしておかなければならないのだという。
タバコは歯周病やインプラント治療の失敗の原因になりやすい、という恐怖をあたえるのはよい。しかし、それを避けるためにいきなり禁煙を勧めるのはよくないのだろうか?一日30本だったものを、一日数10本にしなさいという方がよいのかな?

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