通勤電車で読んだ今週号のエコノミスト誌の記事にマレーシアの頭脳流出防止策のことが出ていた。マレーシアの若い優秀な人は米国や欧州の大学で学び、国内には戻らず海外で働く傾向が高い。マレーシア政府はこの頭脳流出に歯止めをかけ、この傾向を逆流させるために海外の大学を招致し、国内にその分校(いわゆるマレーシアキャンパス)作りを行っている。
例としてはNewcastle University、Southampton University、Marlborough College、Nottingham University(以上英国)、Monash University(オーストラリア)、MIT、Johns Hopkins University(以上米国)などである。マレーシア政府の親御さんへのキャッチフレーズは「欧米の半分の費用で有名大学の学位や資格がとれる」である。欧米の大学側としても世界で最も大きな教育マーケットとしてとらえているようだ。しかも初期の設備投資はマレーシア政府持ちだそうである。マレーシアはかつて英国領で英語が広く使用されていることもこの傾向に拍車をかけているようだ。
私は2002年に短期でミシガン大学に研修を受けに行った。現在所属している水道橋歯周病研究会でもこの9月からタフツ大学等米国の大学研修ツアーが企画されている。日本では経験不可能な新鮮死体での手術の練習ができる点で、米国の歯学部の教育には魅力を感じる。しかも今回は個々の献体のCTの情報まであるそうだ。ミシガン大学で研修した時は、献体のCT情報がなかったのでサイナスリフト練習時に窓開けの位置を勘で決めざるを得なかった。治療技術のみならず教育方法も年々進化しているようだ。日本でも米国の大学歯学部の分校ができればと思うこともあるのだが、日本の法律上、新鮮死体での実習は不可能であるので、その日本での存在意義はかなり薄れてしまうかもしれない。私の尊敬する江戸川区で開業のS先生は開業半ばで3年間タフツ大学歯学部歯周病科に留学された。お話を伺っていると、実力をつけるのに講義や患者実習教育が実にシステマチックに構築されているようでうらやましい。歯学教育の特に卒後教育においては、現状のところ数千万円の学費と生活費、および数年を費やして米国に留学するのが望ましいのかもしれない。インプラントや歯周病の治療など多くの技術や情報は、日本では開業医が米国に留学して日本に帰国した後広めたもので、日本の大学のインプラント治療部は、その「後追い」に過ぎない。日本の大学も米国のように開業医に役立つ研究や技術の開発および教育をしてほしいものである。そうしないと、今後日本の若い優秀な人の頭脳流出は避けられない?