Hさんは今年87歳だが、いつも笑顔でお元気そのものである。レントゲンは1枚目が20年前、2枚目が昨年のものだ。歯根破折で失った歯はあるが、20年以上前に入れた京セラの初期のタイプのインプラントは未だにびくともしない。ありがたい限り。歯ぎしりが強いと見えて歯冠破折や、歯の摩耗は徐々に目立ってきてはいるものの、半年ごとの定期検診を始めてから20年以上たった今も機能的には何ら問題はない。
ところで、Hさんは決してプラークコントロールはいいとは言えないにもかかわらず虫歯が多いほうではない。虫歯のなりやすさは唾液の緩衝能(口の中が酸性に傾いたとき中和する力)、口の中に食べ物を入れる頻度(多いと酸性に傾く回数が増え、虫歯になりやすくなる)といった要素が絡むだろうし、歯周病のかかりやすさは遺伝的な要因も絡むだろう。Hさんの場合は、虫歯や歯周病に罹患しにくいなんらかの恵まれた要素があるのかもしれない。いろいろあるにしてもプラークコントロールは基本で、セルフケアと歯科医院でのメンテナンスで、かなりリスクは減らすことができるが、口の中の恒常性を保つのが比較的容易な人とそうでない人がいて、後者の場合には対応に苦慮することもある。理想は歯科衛生士さんが活躍し、歯医者の出番はなるべく少ないことだろう。
コロナで4月、5月は定期検診を控えて頂いたが、6月から通常通りに戻し、待ちかねたようにいらっしゃる方、本当に来ていいのですかと遠慮がちにいらっしゃる方など、いずれにしてもご来院はありがたい限りです。その一方で、私の親族やお世話になっている英語の先生は「行くよ、行くよ」と言いながら、なかなか来院されないが、そのお気持ちもわからないではない。
クリーニングが終わり、すっきりした表情のHさん。80代後半でも、歯が揃っている人は元気なのかなあと、感謝の念を抱きつつ、Hさんの背中を見送った。
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