「先生、俺を人間にしてくれ」

 ホテル勤務をされていたというAさん(男性)。来院された時は60歳で既に退職されていました。開口一番おっしゃった事はタイトルにもある通り「先生、俺を人間にしてくれ」でした。お話を伺い拝見したところ、右側では大臼歯欠損があるのと上下の残存歯の咬み合わせがすれ違っていて全く噛めていない状況でした。

初診時の口腔内写真です。色々と問題を抱えていました。
初診時の模型です。これを使って、どういう咬み合わせを構築していくかシミュレーションすることになります。
Aさんの右側側面観です。大臼歯が無く奥の方は歯茎同士であたっていて、いかにも窮屈そうです。
模型を下から見上げた様子。上下の歯がすれ違って咬み合っていません。
模型を裏側から見た様子。喉の方から前に向かって見た様子です(口の中ではできない事で模型観察の利点でもあります)。やはり上下の歯がすれ違って咬み合っていません。

「全体的に治してほしい」との事でしたが、他にも色々問題を抱えている状況でした。

インプラントが既に4本入っていました。
正面から見ると咬み合わせた時に下の前歯が隠れてほとんど見えず、咬み合わせが低くなってしまっていることが伺われます。
下の歯です。欠損があり、前歯はジグザグした歯並びになっています。

模型を分析してみると患者さんの左側歯並びの上下的なラインが本来は真っ直ぐに近いのが理想ですが、波打ってしまっているのがわかります。

いよいよ治療のシミュレーションです。オリジナル模型をコピーして矯正やインプラントを入れるシミュレーションを行いました。技工士さんの手を介さず私が全て行っています。

オリジナルの状態です。下の前歯が隠れてほとんど見えません。
低くなってしまった咬み合わせをあげて、下の歯列矯正のシミュレーションを行ったところ
欠損部にインプラントを入れるためのシミュレーションです。

シミュレーションをもとに必要な個所に追加埋入しました。元々入っていたインプラントが炎症をおこしていたので、その処置も行いました。

初診時のレントゲン
追加で埋入したインプラントです。

インプラントの仮歯が入った時点で下顎の矯正を始めました。矯正が終わった時点でAさんは「この写真を印刷してくれ。女房に見せるから。この年で矯正してるのと馬鹿にされたから。」とおっしゃったので下の写真3枚をプリントしてお渡ししました。

術前
欠損部にインプラントを入れて矯正開始です。
前歯のジグザグがなくなり約4か月で矯正を終えました。

矯正が終わりになるにつれ、最終的な咬み合わせについても模型を採取しながら煮詰めていきました。プラスチックの一時的な貼物をこしらえ、これを実際の口腔内に貼り付け、歯全体を覆う仮歯に変え、問題なければ最終的な被せ物に移行します。

術前のAさんの右側です。大臼歯が無い、小臼歯が咬んでいない、咬み合わせが低くなってしまっているなどの問題点を抱えていました。
まだ矯正装置が付いた状態です。大臼歯にインプラントが入り、小臼歯が咬むようになり、咬み合わせが本来の高さになるようにプラスチックの一時的な貼物をこしらえました。
術前のAさんの左側です。歯並びが上下的に波打ってしまっていました。この状態だと咀嚼の時に歯が変な方向にぶつかってしまい、上手く噛めません。
歯並びの上下的に波打っていたのを修正し、ほぼ真っ直ぐにしました。

模型上で用意した貼物を口腔内に接着し、矯正装置を外すと同時に歯全体を覆う仮歯に変えました。これで問題なく咬めるかどうか確かめる期間を設けます。

術前の様子。下の前歯が見えなくて咬み合わせが低い事が伺われます。
矯正装置が付いたまま模型上でシミュレーションした貼物を装着したところです。
矯正装置を外すと同時に、歯全体を覆う仮歯に置き換えたところです。

Aさんにとって長年の懸案事項であった「右側でも咬みたい」はインプラント、矯正、被せ物によって解決することができました。

左下が術前、右上がインプラントが入って矯正中の様子、右下が仮が入ったところです。
模型を下から見上げた様子です。左上が術前、右上がインプラントが入ったところ、右下が最終的な咬み合わせです。
模型を後ろから見た様子です。

Aさんの左上の大臼歯は歯冠の長さが短く磨きずらいため歯冠長延長術という外科処置を行いました。

上の大臼歯の歯冠が短くブラッシングがしずらいため、外科処置を行い適正な歯冠の長さに改善しました。
歯冠長延長術という外科処置の様子です。

こうして約1年がかりで無事治療を終える事ができました。

術前後の正面観です。咬み合わせの高さが適正になり下の前歯が見えるようになりました。
下顎の術前後の状態です。インプラント、矯正、被せ物によって改善しました。
術前後のレントゲンです。

「これで俺も人間になれた。」と最後におっしゃった事が印象的でした。プラークコントロールがあまり良くない方でしたが、その後の定期健診にも欠かさずお見えになっていました。術後10年経った頃、お見えにならなかったので心配して、私のメッセージを添えてハガキを出したところ、奥様より返信がありました。

こんな私でも人様の役に立てて良かったです。歯科医冥利に尽きる瞬間でした。

 全顎治療と聞くと敷居が高いとお感じになるかもしれませんが、治療計画案提示だけでも受け付けていますので、お気軽にご相談下さい。実際に説明だけで治療に至らなかった方もいらっしゃいますし、説明から数年後に治療を始めた方もいらっしゃいます。考える事が好きなので遠慮されなくていいですよ。

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