ホテル勤務をされていたというAさん(男性)。来院された時は60歳で既に退職されていました。開口一番おっしゃった事はタイトルにもある通り「先生、俺を人間にしてくれ」でした。お話を伺い拝見したところ、右側では大臼歯欠損があるのと上下の残存歯の咬み合わせがすれ違っていて全く噛めていない状況でした。





「全体的に治してほしい」との事でしたが、他にも色々問題を抱えている状況でした。



模型を分析してみると患者さんの左側歯並びの上下的なラインが本来は真っ直ぐに近いのが理想ですが、波打ってしまっているのがわかります。


いよいよ治療のシミュレーションです。オリジナル模型をコピーして矯正やインプラントを入れるシミュレーションを行いました。技工士さんの手を介さず私が全て行っています。



シミュレーションをもとに必要な個所に追加埋入しました。元々入っていたインプラントが炎症をおこしていたので、その処置も行いました。


インプラントの仮歯が入った時点で下顎の矯正を始めました。矯正が終わった時点でAさんは「この写真を印刷してくれ。女房に見せるから。この年で矯正してるのと馬鹿にされたから。」とおっしゃったので下の写真3枚をプリントしてお渡ししました。



矯正が終わりになるにつれ、最終的な咬み合わせについても模型を採取しながら煮詰めていきました。プラスチックの一時的な貼物をこしらえ、これを実際の口腔内に貼り付け、歯全体を覆う仮歯に変え、問題なければ最終的な被せ物に移行します。




模型上で用意した貼物を口腔内に接着し、矯正装置を外すと同時に歯全体を覆う仮歯に変えました。これで問題なく咬めるかどうか確かめる期間を設けます。



Aさんにとって長年の懸案事項であった「右側でも咬みたい」はインプラント、矯正、被せ物によって解決することができました。



Aさんの左上の大臼歯は歯冠の長さが短く磨きずらいため歯冠長延長術という外科処置を行いました。


こうして約1年がかりで無事治療を終える事ができました。





「これで俺も人間になれた。」と最後におっしゃった事が印象的でした。プラークコントロールがあまり良くない方でしたが、その後の定期健診にも欠かさずお見えになっていました。術後10年経った頃、お見えにならなかったので心配して、私のメッセージを添えてハガキを出したところ、奥様より返信がありました。


こんな私でも人様の役に立てて良かったです。歯科医冥利に尽きる瞬間でした。
全顎治療と聞くと敷居が高いとお感じになるかもしれませんが、治療計画案提示だけでも受け付けていますので、お気軽にご相談下さい。実際に説明だけで治療に至らなかった方もいらっしゃいますし、説明から数年後に治療を始めた方もいらっしゃいます。考える事が好きなので遠慮されなくていいですよ。
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