静岡県からいらっしゃる60代女性のMさんは、かつて東北大学にお勤めになっていたそうです。東北大学のボート部は、かつては全日本選手権で優勝するなど伝統と実績があり、Mさんは学内のイベントでボートを漕いだことがあるそうです。歯科の技術とは何ら関係が無いはずですが、私が東京医科歯科大学ボート部に所属していたという内容を含んだプロフィールを読んだことが来院の一つのきっかけになったそうです。そんなこともあるのかと驚きました。
Mさんの主訴は「特に不自由しているわけではないが、全体的に治したい。特に上前歯の被せ物の色が気に入っていないのと出っ歯になっているのが気に入らない」との事でした。また「銀歯をできるだけ白いものに置き換えたい」「歯が無いところはブリッジではなくインプラントにして欲しい」というご希望もありました。


治療方針として、矯正を行わず前歯を意図的に引っ込めた形態で被せ物をやり替える方法、矯正と被せ物のやり替えを両方行う方法が考えられました。また矯正する場合、前歯を引っ込めるスペースを確保するために小臼歯の抜歯が必要になるかどうかは、しばしば問題となります。
Mさんのオリジナル模型を4つ作成し、1つ目は矯正は行わず前歯の被せ物のやり替えだけで行った場合のシミュレーション、2つ目は第一小臼歯を抜歯(矯正でよく行われます)した場合のシミュレーション、3つ目は抜歯をしないで矯正が可能かどうかのシミュレーションを行い、それぞれ、何も触っていない4つ目の術前模型と比較し前歯の引っ込み具合を私だけでなくMさんにも確認して頂けるようにしました。



それぞれの模型を見せながらMさんに治療方針を1時間ほどかけて説明しました。開業医さんだと治療計画説明で相談料がかかるのが通常のようですが、私はいつも通り再診料しか頂きませんでした。Mさんからは「先生って変わってますねえ。普通これだけ手間かけていれば、私の今まで行っていた歯医者だと相談料ってとってましたよ。先生って商売っ気ないですねえ。」などと言われてしまいました。
まず矯正を行っていきました。出っ歯がシミュレーションとほぼ同じような感じで改善されました。


下顎にはブリッジが入っていましたが、ダミーの部分をインプラントに代えて欲しいというご希望もありました。Mさんは骨粗鬆症の注射を受けていましたので、主治医の先生の判断で「インプラントをするなら休薬するので、このタイミングで手術をして下さい」とご指示を受けました。下顎の骨は一般的に硬いことが多いのですが、Mさんのは柔らかく、ぼそぼそした感じでしたが埋入したインプラントは何とか骨と引っ付いてくれました。矯正が終わった上顎は銀歯をセラミックに変えたり一番奥はプラチナ(セラミックだと割れる可能性が高いと考えました)に変えていきました。


術前、術後の模型で、出っ歯の改善具合をMさんにお見せしました。治療結果には満足していただけました。


現在も静岡の方から定期検診でお見えになっています。


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