人は何か困難な事を実行するときに必ず「はじめて」あるいは「経験不足」といった時期があり、これを乗り越えなければならないのは歯科医も例外ではありません。以下は2003年頃に行ったサイナスリフト(副鼻腔内造骨術)のケースです。2002年にミシガン大学で学んでからまだ症例経験数が少ない頃でした。この頃のCTは今のように多くの医院にあるようなデジタルではなく大学病院に依頼して撮影してもらうアナログフィルムのものでした。デジタルであれば3次元構築画像を瞬時に示してくれますが、アナログでは自分の頭の中で具体的にどういうかっこをしているのか想像しなければなりませんでした。このケースは造骨をしたい副鼻腔内に隔壁という鋭いエッジをもった骨壁が走っているようでした。ここを避けて操作をしないと骨内の粘膜が破れ手術は失敗に終わる可能性がありました。今から見ても厄介なケースです。いろいろ考えた挙句、立体的なモデルを手作りすることにしました。まずCT断面画像をシャーカステンに置いてトレーシングペーパーを乗っけてトレースしました。CTは1㎜間隔で撮影されていましたので、固まっていない透明な合成樹脂を約1㎜の厚みで伸ばしトレース面に乗せました。それを光照射して重合し固めました。それを剥がすとトレースの鉛筆の線が印記されます。それに沿って技工用のバーで削り、1㎜幅の骨を想定して作りました。それらを順番に接着剤でくっつける事により3Dモデルの完成させました。これによって隔壁の走行状態が具体的に目に見える形にできました。これを基に窓開けのデザインをし、手術に臨みました。術後18年経って骨造成した部位に埋入したインプラントは経過良好です。解剖学的形態の難易度が高いだけでなく副鼻腔粘膜が薄く、まさに薄氷を踏むような思いで行った懐かしいケースです。好きなことを考えに考えるのは時間を忘れてしまうのかもしれません。
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「上の奥から2番目の歯(矢印)がぐらついて痛い」で来院され抜歯となりました。その後、欠損をインプラントで修復する事を望まれました。副鼻腔が下まできていてサイナスリフトが必要でした。
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アナログのフィルムで出来上がってきたCT。鋭い隔壁(矢印)がありました。サイナスリフトを行う際の障害になります。
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立体モデルを手作りすることにしました。手術部位前方からのトレースです。
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手術部位中央から後方までのトレースです。
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できあがった3次元モデル(左が外側、右が内側)。赤矢印が隔壁で、その走行がわかりました。
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3次元モデルを基に窓開けのデザイン(トレーシングペーパー上の赤いライン)を計画しました。オペ時のガイドとなる装置を模型上で作って、それを装着してレントゲンを撮影し窓上げの位置を間違えないように準備しました。レントゲン上の黄色い矢印は隔壁のライン、赤い両矢印はオペを行う際の基準とした点です。
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設計通り窓開けができました。
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術前(右)と術後18年(左)のレントゲン
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術後18年のCTです。
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術前と術後CT断面の比較です。
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